古墳に納められた幾何学模様のある革製の楯など
かすがしゃこふんしゅつどふくそうひん
春日社古墳出土副葬品
Kasugasha Kofun Shutsudo Fukusohin
解説
Description
春日社古墳は,太白区大野田字宮に所在する, 5世紀後半から6世紀初頭に築造された円墳である。5世紀後半から6世紀中頃にかけて築造された,中小規模の古墳40基以上からなる大野田古墳群内に位置する。道路拡幅や区画整理事業に伴い昭和51年(1976),平成6年(1994), 19年に発掘調査が実施され,周溝外径約47m,周溝内径約32mの規模を有する同古墳群内最大の円墳であることが判明した。周溝の内側には幅約5mの平坦なテラスがあり,更にその内側に径約22m,残存高約1.5mの墳丘が確認された。2つの埋葬施設(主体部)を有し,その第2主体部から,革盾,鉄矛,鉄鏃の副葬品が出土した。
このうち革盾は,墓坑内の棺埋納部の外側に置かれ, 上端を南東に向け表面を上にした状態で出土した。鉄矛は矛先を革盾下端側に向けて草盾上に置かれ,鉄鏃は,尖端部を矛先と同方向に向け,革盾側縁に接して置かれていた。
革盾は,木枠に革を張り,刺し縫いで文様を表現した盾である。弥生時代以来の伝統的な木盾と異なり,古墳時代中期に突如出現し,古墳副葬品に加わることから,当時のヤマト政権より各地の首長層に政治的同盟関係の証として配布されたものと考えられている。本体の革や木枠等の構造は失われているものの,塗布された漆と顔料が盾の原形を良好に留めている。盾面は綾杉文帯で
「Ⅱ」字形に区画され,中央には菱形文,周囲には鋸歯文が配されている。刺し縫いで文様を表現した後,表裏全面に黒漆が塗布され,文様には鮮やかな赤と赤紫に近い赤の2種類の顔料が交互に施されている。
鉄矛は,基部の延長線上の革盾表面に黒褐色に近い漆膜が直線的に残存していることから,柄に漆が塗布されていたものと考えられる。
鉄鏃は,部分的に矢柄が残存し,茎部の延長上に長方形状の黒色漆膜と赤色顔料による矢羽根の痕跡が確認されることから,ひとまとめにされた矢の束と考えられる。鉄鏃の先端から黒色漆膜の先端までの長さは最大で75cmであり,当時の矢の長さ,形状を考える上で重要な例である。
本資料の革盾は,盾の全体形状を良好に知り得る全国的にも稀な例であり,東北地方唯一の貴重な出土資料といえる。同時に副葬された鉄矛や鉄鏃(矢束)とともに当時のヤマト政権から権威の象徴として配布された可能性があり,古墳時代中期5世紀後半~6世紀初頭におけるヤマト政権と仙台平野の首長層との繋がりを考える上で重要である。