身分の高い女性が用いた箱型の乗り物。江戸時代中期の大名婚礼調度。
たけびしうめあおいもんまきえおんなのりもの
竹菱梅葵紋蒔絵女乗物
Takebishi Ume Aoimon Makie Onnanorimono
解説
Description
本品は,文化11年(1814),紀州徳川家から仙台藩十代藩主伊達斉宗のもとに入輿した鍇姫(かたひめ・1795~1827)が用いたものと伝えられている。
乗用部分は台形をした筐体で,上部に長柄(ながえ)を通す金具を付ける。筐体の左右側面には引戸が設けられ,上に屋根を掛けている。屋根の一部は上方に跳ね上げられるようになっている。表面は長柄も含め,全体を黒漆塗とし,金銀薄肉高蒔絵や蒔き暈し技法などにより,竹菱に梅枝の文様を表し,各所に葵紋を配する。筐体及び屋根の要所などには,魚々子(ななこ)地に葵唐草文などを線刻した銅製鍍金の金物を打つ。
引戸と筐体前面には,引き違いの無双窓が取り付けられており,窓の開口部には萌黄地唐草文の紗を張っている。筐体内部には茶ビロード,地の脇息が両側に付き,壁面は紙本金地著色で『源氏物語』の「初音」(正面),「紅葉の賀」(乗用者右手側面),「胡蝶」(同左手側面)の各場面と,吉野山と思われる桜の景色(背面)が描かれているが,源氏物語を内部に描く女乗物の例は,徳川御三家以上に限られているという報告がある。内部の底面は赤みのある梨地である。屋根の内側は格天井のように桟で区切り,金地に椿や梅,尾長鳥などの花鳥を描く。保存状態は良好。屋根の一部などに修理痕がみられる。付属品として,鳳凰唐花文錦および蜀江文錦の布団が敷かれている。
乗物の形状や文様,金銀蒔絵を基調とした漆芸技法などから,鍇姫婚礼時の文化11年より遡る,江戸時代18世紀後半の作と推定される。