名取川ふれあいプラン
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それいけ名取川探検隊!

〜わたしたちにできること つたえよう!つづけよう!〜」

仙台市立生出小学校 赤石分校

 

 活動の始まりと取り組みの概要

 生出小学校赤石分校は、仙台市街より約15q南西、旧秋保町と川崎町への分岐点にあり、目の前に名取川が流れている。このあたりは、大八山も見える盆地的地形で、四季の景色が美しい。名取川をはさんで北赤石・南赤石集落があり、秋保街道を車で西に5分も行けば秋保温泉・磊々峡に至る。北に小高い3つの山があり、ところどころに田や畑も見ることができる。このような恵まれた地形や名取川にすむ生き物等は、自然の教材であり、望ましい教育環境になっている。

 分校の前を流れる名取川は、かつては、たくさんのカジカや鮎が泳ぎ、鮭の遡上も見られた清らかな川であった。地域の生活を支える貴重な役割を担っていたが、水の汚れや水道の普及とともに、名取川に対する関心は薄らいできた。

 そこで、赤石分校では、ふるさとを流れる名取川への愛着を深め、河川愛護の心を培い、赤石の環境を考えようと、新たな取り組みを「総合的な学習」の導入に先立って始めることにした。その具体的な中身が、源流から河口までの調査「名取川探検旅行」と、赤石での川の季節ごとの変化を調べる「名取川大会」である。平成8年度に始まったこれらの取り組みは、試行錯誤を重ねながら現在のような形が次第にできていき、今年で18年目になる。その間、日本水環境学会東北支部より「平成13年度 東北・水すまし賞」、「平成17年度 東北水すまし特別賞」、「平成22年度 東北・水すまし賞」をいただいている。

 

活動内容

(1)「名取川大会」

全校児童で学校の前を流れる「名取川」の河原に降り、五感を使って季節による環境の変化を感じ取る。まず、あたりを見渡しながら見えたもの・見つけたものはないかどうか、次に、目をつむって音を聞き、どんな音が耳に入ってきたか、においはどうかなど、十分な時間を取って感じ取る。子どもたちがみんな静かにしていると、通りすがりの車の音に混ざって、何種類かの鳥の鳴き声や草花の風に揺れる音、川の流れる音、季節の虫の声なども聞こえてくる。五感を意識的に使うことで、子どもたちは名取川の河原の様子を様々な角度から実感する。そして次は、虫取網、温度計、透明度測定器、流速計などを使って、名取川に生息している生き物や、川の水の温度や透明度、川の汚れ具合(COD)、流れの速さなどを調べる。調べることを通して、子どもたちは名取川と直に触れ合う。川の冷たさ、石の重さ、流れの速さなどを肌に感じながら、水の中や石の陰、腐った落ち葉の中に潜むいろいろな生き物との驚きの出会いがある。突然飛び出してくる魚、逃げ惑う虫たち。長靴の中が水没する子どもも多い。川の生き物は、ヘビトンボやカワゲラの幼虫、ヤゴやエビ類、ドジョウやオタマジャクシ、小魚類、カニなどのほか、見たこともない生き物と出会うこともある。図鑑は不可欠である。見つけた生き物を教室に持ち帰ってしばらく飼いながら継続的な観察を行うこともあるが、たいていは観察が終われば、子どもたちはだれもがやさしく川に返す。このあたりの子どもたちは虫を珍しがらない。水温が高い夏には、体操着の中に水着を着て行き、川の中を歩きながら石の下に何かいないか探すこともある。以前は、竹を組んでいかだを作って遊んだ時期もあったそうである。

これらの活動は、前半は学年の枠を超え協力しながら行い、後半は学年ごとに分かれ、その学年の学習に結びついた内容を学習する。教科等は、34年生は総合的な学習の時間、12年生は生活科として行う。(例えば低学年は、河原の石を集めて観察したりする)そして、活動の最後には、環境を大切にする気持ちを表すため、河原の清掃も行っている。河原を歩きまわってごみを集めているうちに、何に使うものなのか分からないような様々なごみが流れ着いていること、そして、予想以上にごみの量が多いことに気づく。そこから、自分たちの地域を流れる川を汚してはならないという気持ちが生まれてくる。川をもっと大切にしてほしいという気持ちを込めて、立て看板を作りをし、ゴミの不法投棄をしないよう呼びかけた。また、環境委員会の活動の一環として行っている川の清掃活動も地域に呼びかけている。

春夏秋冬の季節ごとに同じような活動を行い、記録を続けることで、季節による変化にも気づくことができる。変化は、生息する生き物の種類や植物の成長の変化だけではない。観察のために歩く河原そのものも大きく変わっていることが多い。前回はなかった広々とした砂浜ができていたこともある。そこに新たな生き物の住処が生まれていることもある。

 

(2)名取川探検旅行

 分校の最高学年の4年生になると、いよいよ名取川全体を調べることになる。毎年5月末頃、2日間かけて、川全体の調査活動を行う。1日目は名取川の源流を求め行ける所まで登っていく。秋保街道を西へどこまでも進んでいくと、道路の舗装は途切れ山道に入る。山形県との県境の二口峠付近で、車では進むことができなくなる。本当の源流はまだ先にあるが、危険なためその辺りから観察を始める。岩から水がしみ出ている場所もある。温度、COD、透明度、生き物などを調査・観察する。サンショウウオに出会うこともあった。何十万匹という大量のオタマジャクシが群れている場面に遭遇したこともある。川の上流から観察可能な地点を何箇所か選んで観察を繰り返しながら、次第に上流から中流へ、中流から下流へと下っていく。年によっても多少場所は異なるが、姉滝、キャンプ場入り口付近で観察し、ビジターセンターにも立ち寄る。秋保大滝、深野橋、馬場小学校向かいの下窪、葉山橋などから観察地点をいくつか選ぶ。

2日目は、分校から河口にかけて探検に行く。生出橋、鍾景閣付近、熊野神社付近、太白大橋の下、新名取川橋、閖上漁港(河口)まで何箇所かを選んで観察していく。生出橋あたりから川幅も次第に広がり、水も透明度が落ちてくる。合流する川もあり、河口付近では対岸がだいぶ遠く感じるようになる。閖上に着くと、そこにははるか牡鹿半島を望む太平洋が・・・子どもたちは川が川でなくなる瞬間を目の当たりにする。潮の香りやウミネコが子どもたちを出迎えてくれる。この活動を継続して行ってきたが、児童の減少とともに4年生の在籍のない年は、3年生が「名取川上流探検旅行」を行った。

 平成23年より「名取川上流探検旅行」と「名取川下流探検旅行」に分け、隔年で全児童参加で実施している。今年度は「名取川下流探検旅行」を行う予定である。

(3)おわりに

名取川大会や名取川探検旅行などの調べ学習は、1年間にわたる観察記録を振り返ってまとめ、平成21年度から23年度までは仙台市教育委員会主催の「子供環境実践発表会」で発表した。その活動は、市内の各小・中学校にもDVD等で配られ、紹介されている。平成20年度と24年度は、仙台市教育委員会主催の「教育課題研究発表会」で発表している。また、年度末の参観時の「分校発表会」では、保護者や地域住民に1年間の活動のまとめを発表している。

「名取川大会」や「名取川探検旅行」のほか、春には地元漁協の協力を得て、鮎の稚魚の放流を見学させてもらうこともある。何万引きという鮎が、川に流れ出ていく姿は子どもたちの心を感動させる。川に出ても鮎はなかなか逃げないで、近くの浅瀬を群れで泳いでいる。その鮎を手にとってしばらく眺めている子もいる。また、ここ2年間は、NPO法人「カワラバン」の協力で、サケ・サクラマスの稚魚の飼育・放流の活動を行っている。

このように、名取川は、子どもたちの豊かな学習の地域素材であるだけでなく、子どもたちの心も豊かに育てている。これからも、自然を大切にしていく限り、名取川は、地域の子どもたちを豊かに育てていくだろう。