第37回全国高等学校文芸コンクール 小説部門「鷲寿司」最優秀賞・文部科学大臣賞
受賞者代表挨拶
賞状
取材
今回、受賞の知らせを聞いた時は驚きました。小学生の頃から小説を書いてきたので光栄に思います。
この小説を書いたきっかけは、ある広告を見かけたことです。学校から帰る電車内で見上げた車内広告に載っていた赤貝の寿司が羽を広げた鷲のように見えて、一目で魅了されました。その為、この貝を題材にして小説を書きたいと思っていました。広告には、震災から復興中、今が旬の日本一の赤貝、と書かれていたと記憶しています。
震災について小説を書くことにはある抵抗がありました。私は震災の時関東に住んでいました。幼稚園生であったため、記憶が断片的であるばかりか、東北の方々が経験したであろう出来事を私は知りません。書いたとて綺麗事になって終いなのではないかという躊躇いがありました。それでもこの小説を書いたのには訳があります。
伝えたいことがありました。
時は流れていくということです。
「知る世代」の語る言葉は勿論重要です。しかし「知らない世代」の語る言葉も重要になってくると思います。
戦争について描いたある絵本を読んだことがあります。作者の方は戦争を経験しておらず、空襲を経験した方から「こんなものではなかった」とお叱りを受けたこともあったそうです。それでも作者の方はその本を描きました。いつか戦争の記憶は失われてしまうからです。戦争を経験していない自分の描く絵で、次の世代に戦争の悲惨さを伝えるために絵を描いたそうです。その言葉に背中を押されて、この小説を書くことにしました。
私は、どこにでもいるただの高校生に過ぎません。今回の受賞で周りの方々からたくさんのお祝いの言葉を頂きましたが、私自身はこの小説自体がこんなに評価されるほど完璧なものだとは思いません。
それでもこのような賞を頂けたのは、私が小説に込めた思いが伝わったからだと信じます。
ですから私は、皆さんが次世代に伝えたいことについてそれぞれ考えるきっかけにさえなれば、これ以上の喜びはありません。
今回の受賞の機会を生かし、皆さんに読んでいただけるような、そして自分も満足できる、より良い小説を書けるよう精進してゆく所存です。
文芸部 5年 横山晴香